2025.09.01
【責任編集】ラーニング・ツリー
ITIL 4®はなぜ今、これほどまでに重要なのか?~変革の時代を勝ち抜くための羅針盤
今日のビジネス環境は、目まぐるしい変化の中にあります。デジタルトランスフォーメーション(DX)の波はあらゆる業界に押し寄せ、AIの進化は想像を超えるスピードで私たちの働き方やビジネスモデルを変革しようとしています。このような激動の時代において、企業が競争力を維持し、持続的に成長していくためには、ITサービスの提供と管理のあり方を根本から見直す必要があります。
その中で今、かつてないほどに注目を集めているのが「ITIL 4®」です。ITIL®は、ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティスを体系化したフレームワークであり、その最新版であるITIL 4®は、アジャイル、DevOps、クラウドコンピューティングといった現代のITトレンドを統合し、より柔軟で価値志向のサービスマネジメントを可能にしています。
本記事では、なぜ今ITIL 4®がこれほどまでに重要性を増しているのか、その理由を深く掘り下げていきます。

1.日本におけるITIL 4®資格取得者の急増:高まる個人と組織の意識
近年、日本においてITIL 4®の資格取得者が飛躍的に増加していることをご存じでしょうか。情報処理技術者試験や一部のメーカー系資格を除くと、ITIL 4®の資格取得者数は国内のIT関連資格の中でトップ3に数えられるほどの勢いです。
この数字は、ITプロフェッショナルが自身のスキルアップとしてITIL 4®の重要性を認識しているだけでなく、企業側も組織全体のITサービスマネジメント能力向上に向けて積極的に投資していることを明確に示しています。個人がITIL 4®の知識を習得することで、自身のキャリア価値を高めるだけでなく、所属する組織のITサービス品質向上に貢献できるという、明確なメリットを実感しているからに他なりません。
この資格取得者の増加は、ITIL 4®が単なる「流行り」ではなく、日本のIT業界において不可欠なスキルセットとして定着しつつあることの何よりの証拠と言えるでしょう。
2.慣習からの脱却とグローバルスタンダードとしてのITIL 4®の価値
「今の運用に慣れているから、ITIL 4®を導入する必要はない」。そう考えるIT担当者や組織も少なくないかもしれません。確かに、長年培ってきた運用方法には慣れ親しんだ安心感があるでしょう。しかし、グローバルな競争が激化し、ビジネス環境が複雑化する現代において、その「慣れ」が足かせとなる可能性も否定できません。
ITIL 4®は、単なる運用マニュアルではありません。それは、世界中の数多くの企業で採用され、成功を収めてきたITサービスマネジメントの「グローバルスタンダード」です。ITIL 4®の導入は、単に個人の能力向上に留まらず、組織全体としてITサービスをどのように設計し、提供し、改善していくべきかという「マネジメントの基礎知識」を確立することを意味します。
ITIL 4®の原則とプラクティスを組織に適用することで、企業はITサービス提供の効率性、品質、そして顧客満足度を飛躍的に向上させることができます。また、ITIL 4®を採用していることは、ビジネスパートナーや顧客からの信頼獲得にも繋がり、企業価値を向上させる要素としても評価されるようになってきています。慣れ親しんだやり方に固執するのではなく、変化の激しい時代に対応できる柔軟性と強靭さを組織にもたらすのがITIL 4®なのです。
3.DXとAIの浸透が加速する中でITIL 4®が全業種に広がる未来
現在、日本においてITIL 4®の導入を積極的に進めているのは、主にITサービス業界やコンサルティングファームです。これらの業界は、ITサービスを本業として提供しており、その品質向上と効率化が直接的な競争力に繋がるため、ITIL 4®の価値を早期に認識し、導入を進めてきました。
しかし、DX推進が全業種に浸透し、AIの導入がビジネスのあらゆる側面で始まりつつある今、この状況は劇的に変化しようとしています。製造業、金融業、小売業、医療など、これまでITを「コストセンター」と捉えていた非IT業界の企業も、ITを「ビジネス成長のドライバー」として位置づける必要性に迫られています。
2026年には、これらの非IT業界においても、ITIL 4®の採用が一気に広がると予想されています。なぜなら、DXやAIの導入を成功させるためには、その基盤となるITサービスの適切な設計、運用、そして継続的な改善が不可欠だからです。ITIL 4は、このような複雑なIT環境を統制し、ビジネス価値を最大化するための強力なフレームワークとなります。非IT企業がITIL 4®を導入することで、自社のIT部門を単なるサポート部署ではなく、戦略的なビジネスパートナーへと変革させることが可能になるでしょう。
4.クラウド・SaaS時代におけるITIL 4®の不可欠性
今日のITサービス提供形態は、オンプレミスからクラウドベース、そしてSaaS(Software as a Service)へと大きくシフトしています。多くの企業が、ITインフラやアプリケーションを自社で保有・運用するのではなく、外部のクラウドプロバイダーやSaaSベンダーのサービスを利用することが一般的になりました。
このようなサービス形態の変更は、ITサービスの運用管理において新たな課題をもたらしています。従来のオンプレミス環境におけるサービス運用管理手法では、クラウドやSaaSの特性に対応しきれない場面が増えてきているのです。例えば、サービスプロバイダーとの明確な役割分担、SLA(Service Level Agreement)の管理、変化の速いサービスアップデートへの対応、セキュリティとコンプライアンスの確保など、新たな管理手法が求められています。
ITIL 4®は、このようなクラウドベースやSaaS環境におけるサービスマネジメントの課題に対応するために、そのフレームワークを柔軟に進化させています。例えば、サービスバリューチェーン(SVC)の概念や、様々なプラクティスを通じて、多様なサービス提供モデルに対応できるアプローチを提供しています。ITIL 4®を適用することで、企業はクラウドやSaaSを最大限に活用しつつ、サービスの安定性、信頼性、そしてビジネス価値を確保するための適切な管理手法を確立できるのです。
まとめ:ITIL 4®は未来を切り開くための羅針盤
ITIL 4®は、単なるIT部門のツールに留まらず、現代のビジネス環境において企業全体の競争力を高めるための戦略的なフレームワークとしての重要性を増しています。資格取得者の増加が示す個人の意識の高まり、グローバルスタンダードとしての価値、DXとAIの波に乗るための全業種への広がり、そしてクラウド・SaaS時代における不可欠性。これらの要素が絡み合い、ITIL 4®は未来のビジネスを成功に導くための羅針盤として、その存在感を確固たるものにしています。
今後、ITIL 4は、企業がデジタル変革を推進し、新たな技術をビジネスに統合していく上で、ますます不可欠な要素となるでしょう。ITIL 4®の知識と実践を通じて、個人は自身のキャリアを、組織はビジネスの未来を、より確かなものへと導くことができるはずです。今こそ、ITIL 4®を深く理解し、その価値を最大限に引き出すための行動を起こすべき時が来ています。