2026.05.20
【責任編集】ラーニング・ツリー

AIは社員のコミュニケーション能力を低下させているのか?―AI活用が向上させたもの、低下させたもの

生成AIの普及により、ビジネスにおけるコミュニケーションの在り方は大きく変化しています。
会議の要約、提案書の作成、メール文面の作成など、これまで人が時間をかけて行っていた業務は、AIの支援によって劇的に効率化されました。さらに、開発分野においてもAIによるコード生成が進み、AIが作成したソフトウェア製品のリリースも始まっています。
当社では、プロジェクトマネジメント、ビジネスアナリシス、AI駆動開発など、さまざまな技術研修を提供していますが、お客様の研修ニーズの背景や課題をヒアリングしていくと、非常に高い割合で「社員のコミュニケーション能力に起因する課題」が挙げられます。

例えば、以下のようなものです。
・プロジェクトマネージャの課題のトップ3にはステークホルダーマネジメントが含まれ、コミュニケーションの問題が要因として挙げられます。
・ビジネスアナリストには、要件定義の基盤となるコミュニケーション能力の重要なポイントであるヒアリング能力が常に求められます。
・AI駆動開発においては、SDD(仕様駆動開発)が重要視されており、ステークホルダーの要求を正確に仕様へ落とし込む力が不可欠です。

こうした傾向は、コミュニケーションが新たな課題になったというよりも、AIの活用によって働き方が変化し、コミュニケーション能力の重要性が一層高まった結果であると考えられます。また、AIの日常的な利用により、個人の能力にも変化が生じている可能性があります。
もちろん、コミュニケーション能力の問題はAIだけに起因するものではありません。働き方や組織構造の変化も影響していますが、本稿では特にAIがもたらす影響に焦点を当てます。

AI時代におけるコミュニケーション能力の変化とは何か

では、AIの活用によってコミュニケーション能力はどのように変化しているのでしょうか。
コミュニケーション能力と一口に言っても、その要素は多岐にわたります。大きくは「伝える力」「聞く力」「考える力」に分類できますが、それぞれに複数のスキルや判断要素が含まれています。

◆コミュニケーション能力の向上

ポジティブな変化として挙げられるのは、「伝える力の底上げ」です。
生成AIは、文脈に応じた適切な表現や構成を提案するため、より分かりやすく説得力のある資料作成を支援します。その結果、ビジネス文書の品質と作成スピードは大きく向上しています。
実際、AIを活用することで、経験の浅い若手社員でも一定水準のアウトプットを短時間で作成できるようになり、コミュニケーションの質の向上につながっています。
また、AIは「学習パートナー」としても有効です。言い換えや改善提案を通じて適切な表現を学べるため、表現力や構成力の向上にも寄与します。さらに、AIの提案は一般的に丁寧でポジティブな表現を含むため、対人コミュニケーションにおける関係構築の円滑化にも寄与すると期待されます。

◆コミュニケーション能力の低下

一方で、ネガティブな側面も無視できません。
特に企業現場では、「自分の言葉で伝える力が弱くなっている」という指摘が増えています。AIへの依存により、言葉を自ら考える機会が減少し、思考の言語化や表現の幅が狭まるリスクがあるためです。
また、「聞く力」の低下も懸念されています。自分なりの思考プロセスを経ずにAIの出力をそのまま受け入れることで、相手の意見を深く理解しようとする姿勢や、傾聴力が弱まる可能性があります。
その結果、合意形成に至らない場面が増えるケースも見られます。
さらに重要なのが、思考力への影響です。AIは即座に“それらしい答え”を提示するため、人が深く考え、構造化するプロセスを省略しがちになります。これにより、批判的思考力の低下や、前提の妥当性を検証しないまま意思疎通を行うリスクが高まります。
加えて、テキスト中心のコミュニケーションが増えることで、非言語的なコミュニケーション能力の低下も懸念されています。表情や声のトーン、間といった要素は対面での対話を通じて磨かれるものであり、AIとの対話に偏ることで、これらの能力が相対的に弱まる可能性があります。

◆AI時代におけるコミュニケーション能力の変化への対応

AIはコミュニケーションを「効率化・高度化する側面」と「人間の能力を代替するリスク」の両面を持っています。重要なのは、この変化を前提として、どの能力を意図的に強化すべきかを再定義することです。
今後求められるのは、「AIを活用して成果物を整える力」だけでなく、「自分の言葉で意図を伝え、相手と合意形成する力」です。
自ら考え、相手の意見を傾聴し、アサーティブなコミュニケーションによって相互理解を深める力を、いかに伸ばしていくかが重要な課題となります。
プロジェクトマネジメントやビジネスアナリシス、開発における要件定義の現場では、利害関係者との対話や意思決定が不可欠であり、人間のコミュニケーション能力の重要性はむしろ高まっています。
また、リーダーにとっては、チームメンバーとの関係構築とパフォーマンス向上のためにも、コミュニケーション能力は不可欠です。
だからこそ、これからのコミュニケーション研修は「AI前提」で設計される必要があります。AIを活用しながらも、思考力・対話力・共感力といった人間ならではのスキルを強化する。
このバランスこそが、AI時代における組織の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。

◆AI時代のコミュニケーション課題に対応する研修

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